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故郷で農業を。東京で知った上富良野の価値 | 上富良野のヒト・コト上富良野のヒト・コト
移住者の声
島崎ひとみさん、宏幸さん夫妻

故郷で農業を。東京で知った上富良野の価値

十勝岳と、大地に波打つ畑を一望できる深山峠。南に下り、車を10分ほど走らせた国道沿いに、ユニークな社名の「しまねずみファーム」はあります。

代表の島崎ひとみさん、宏幸さん夫妻は、小さいけれど知恵に富み、機敏に動き回るあの小動物のように、アップデートを繰り返します。ひとみさんは幼い頃、地元の上富良野や農業という仕事をそれほど好きになれず、進学や就職で町を離れましたが、30代でUターン。故郷と農業の可能性に目覚めるまでの軌跡や、現在地を聞きました。

移住スタイル:Uターン

移住タイプ:こだわりモノづくり志向、スタートアップ志向

移住年:2016年
移住時の年代:30代

家族構成:夫婦、息子1人

 
 
【移住のエピソード】
 
親に反対され、思いを伝えた3年間
 
 

ひとみさんの父は、上富良野でジャガイモやビートなどを育てる畑作農家です。長い時間働き、体力を使い、細かな作業も多い仕事。自分のペースではなく、自然に左右されます。ひとみさんは幼い頃から「自分には向いていない」と思い、父も「性格的に難しい」と後を継がせるつもりはゼロでした。

 

都会への憧れもあり、ひとみさんは旭川の高校に通い、専門学校への進学で札幌に出ました。グラフィックデザインを学び、専門学校そばの広告代理店に就職。夜遅くまで制作の仕事に励みました。「遠くまで日帰り出張したり、大きなクライアントに向き合ったり。毎日必死でした」と懐かしみます。同期の宏幸さんと出会って公私ともに充実していましたが、東京勤務が大きな転機になりました。

仕事帰りの深夜。都内のスーパーに通ううち、新鮮な北海道野菜がいかに貴重かを痛感しました。ものづくりが好きな宏幸さんも「農業をやりたい」「北海道ならECで勝機がある」と考え、「2人で感激するおいしいものをつくろう!」と目標を掲げました。

農業の厳しさを知るひとみさんの両親は首を縦に振りませんでしたが、夫婦で3年かけて「本気度」を伝えました。やがて父は「これからはアスパラが伸びるぞ」と助言し、ハウス農家を紹介してくれるまでに。父を介して故郷で農地を借りて2017年、アスパラとミニトマトを手がける農業を始めました。

 
【実際に移住して感じること】
 
情報×資源×農業で広がる可能性
 
 
 
 
 

初めて飛び込んだ農業ですが、「感激」を目指してこだわりを注げる、可能性にあふれた仕事でした。広告代理店時代は、課題を見つけて最新ツールを使い、PDCAを回すことが体に染みついていた島崎さん夫妻。そのスキルをベースに、次々と新しい外部の情報や技術を取り入れてきました。

就農前に見学した熊本県のトマト農家では、限られた面積の中で収量を最大化かつ効率化するコツを学びました。就農後は香川県へ視察に行き、体への負担を和らげ、アスパラの根の張り具合も改善する栽培方法を導入しました。

社員にはアップルウォッチを渡し、アプリで連絡や報告を「スマート化」。雨の日は休むのではなく社員と会議を開いて課題や方針を「見える化」。宏幸さんは「スマート農業と言うとハード面が注目されますが、コミュニケーションを良くする課題があったので『プチICT』でソフト面を充実させています。課題はいつも変わるので、絶えず変化しています」とやりがいを語ります。

有機系や自然由来の肥料で土づくりからこだわります。「名物の豚サガリの焼肉に合うアスパラを!」と目標を立てては肥料の配合を試行錯誤。茎をそのまま伸ばす「立茎栽培」で夏も販売し、人気を集めています。食べ物をつくる以上、「おいしい!」を聞けたときが「やってて良かった!」と思える瞬間です。十勝岳の温泉宿に泊まった人や町内の飲食店で食事した人が、アスパラの味を忘れられずに立ち寄ることもあります。

「『何もない』と思っていた上富良野ですが、外から見たら価値の高いものが多い。ラベンダーやホップも当たり前だと思っていましたが、農業との相乗効果でまだまだ進化できると思うようになりました」。ひとみさんは、ポテンシャルの高さを感じています。

 
【 上富良野町の暮らしの特徴】
 
せかされず、子どもと外で過ごす時間
 

 子どもの頃は退屈気味で、都会に憧れていたひとみさん。Uターンしてからは、追い立てられるような空気感がなく、ゆったり過ごせる環境に価値を感じるようになりました。特に家族ができてからは、昔と同じ環境でも違ったもののように映ります。

ひとみさんは父の畑仕事を手伝うのは「大嫌い」だったので、自身の5歳のお子さんには同じようにはしたくないと思っていました。ですがお子さんは宏幸さんに似たのか物をつくるのが好きで、畑にいても苦にならず、外で過ごす時間が多いといいます。畑では「これを植えるんだねー」「ブルーベリー食べていい?」と楽しそうで、ハウスの組み立て作業にも興味津々です。2人の出張についていったり、一緒に十勝岳の宿に納品したり。夫妻は忙しい中でも、お子さんとの時間を大切にしています。

町の子育て環境もお気に入りです。町立図書館は、都市部に負けないほど子ども向けコーナーが充実しているのが自慢。保育面では困ったことがなく、保健福祉総合センター「かみん」では親身に相談に乗ってくれるといいます。イベントが開かれるときは託児を頼みやすく、ひとみさんは「人口の少ない市町の農業女性には驚かれるほど、いろいろな活動をしやすい環境ですよ」と満足そうです。

 
【上富良野町の魅⼒】
 
つながりを持ちやすい、程よい距離感
 
 

雄大な十勝岳や目を奪われる花畑もすぐそば。全国区の人気と知名度がある自然景観の貴重さも、Uターンして気づきました。「戻ってきてから人生の楽しみ方が増えました。漫画のような爽やかな空と雲、一面のラベンダー…。冬はクリスマスの絵本に出てくるような木があり、昔は何も感じなかったことを楽しめるようになりました。この自然や、都市が近い程よい環境、程よい距離感でのお付き合いがいいですね」と居心地の良さを語ります。

ひとみさんが考える富良野の魅力には、人との距離感もあります。Uターンでお店を開く人も少なくなく、共感できるポイントが多いため、自然と取引につながることがあります。モノやまちを脈々とつくってきた担い手にも、リスペクトできるようになりました。「いろんな世界を見て戻ったからこそ、真摯に向き合っている上富良野の人たちを尊敬できます。今では、上富良野を大事にしたいと思えます」

人とのつながりが生まれやすいのは、今では町内だけではありません。例えば、ひとみさんは母校の縁である高校教員と出会い、札幌にある勤務先の高校の生徒らとつながりました。生徒たちと話し合う中で、普段は廃棄しているアスパラの残渣を有効活用した「フードペーパー」の栞を販売することになり、これがきっかけで、自然素材を取り入れるコスメブランド「SHIRO」のヘッドスパに採用されました。どこにいても、Zoom会議でプロジェクトが進む時代です。「昔ならそうそう、こんなチャンスはなかったけれど、今では上富良野にいながら新しい人とつながれます」と、しみじみ語ります。

 
【移住を検討されている⽅へメッセージ】
 
都市部と往来しやすく、二拠点にも◎
 
 

ひとみさんは、自身の会社とは別に、富良野エリアを盛り上げたりする地域商社の役員も務めています。メンバーは関東在住が多いため、Zoom会議を中心に連絡を取り合っています。北海道の食・ブランドにフォーカスした「至福のギフト」という贈り物のセットを開発し、農業とはまた違った視点で学びになっています。「ネット環境がいいので、リモートで複数の仕事をすることもできます。私も東京にいた時とは違った気持ちで仕事ができています。外部の人と付き合いがあると気づきがたくさんあるので、感度を高くしていこうと思えますね」

島崎さん夫婦は冬になると1~2週間、関東に滞在します。どんな仕事や働き方があって、どういう人が、どこで、どんな暮らしをしているのか。街や売り場に足を運び、「しまねずみファームの野菜を選んでもらうにはどうしたらいいのか」とイメージを膨らませています。大消費地に直結した旭川空港までは、上富良野からわずか30分。刺激やヒントの多い都市部と行き来するのにも、恵まれた立地です。

ひとみさんは「初めから移住するのはハードルが高いかもしれません。もう少し気軽に、例えば2拠点生活をイメージしてみるのもいいかもしれませんよ」とアドバイスしてくれました。東京にいた頃も定期的に帰省し、行き来しながら時間をかけて就農の準備をしていただけに、リアルで説得力がありました。

 

【取材を終えて】

島崎さん夫妻はハワイで挙式しました。その夜も「本気で農業をやりたい」と両親に訴えたものの、穏やかでない空気に。それほど苦労して思いを伝えました。一時は長野県での移住を検討。就農フェアで「全国区の富良野エリアで、機械や畑もあるのにもったいない」と言われ、ハッとしました。就農当初に狙ったのは、干支の最初の「ねずみ」にあやかったトップランナー。「一番に!」の思いは今、「みんなで一緒に」へ変わりました。

じっくり覚悟を固め、外の声に耳を傾け、つながりを生かす――。理想とする生き方をかなえる「知恵」が詰まったような、素敵なストーリーでした。

Profile
島崎ひとみさん、宏幸さん夫妻
島崎ひとみ(しまざき・ひとみ)さん

上富良野町生まれ。中学まで町内で学び、旭川市内の高校を卒業後は、専門学校進学で札幌市へ。広告代理店を退職して2016年にUターン、農家の父の協力も得て翌年に就農。「しまねずみファーム」代表。

島崎宏幸(しまざき・ひろゆき)さん

札幌市出身。前職の広告代理店ではネット通販事業などを手がけ、同期のひとみさんと出会った。ベランダで野菜を育てるなど、かねて農業への関心を抱いていた。課題を解決する仕組みの構築が得意。
2022.10.25
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